2010UJ04月号 『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』前編 感想

| 2010.04.18 (Sun) 11:44 PM | [SBR感想] | ←前■TOP■次→ |
世界で最も
  ”黒い絵”を追って

      露伴、パリへ――!

 


佳境を迎えるSBR本編と並行して、ついに今月より3号連続で掲載されるスピンアウト作品『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。この作品は日本よりもフランス語版がオールカラー単行本として、先日先行発売されました。これは元々がルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトという企画だからです。仏語版ですが、オールカラーのスゴ味は筆舌に尽くしがたい。せっかくなので、ところどころ比較しながら感想を書きたいと思います。感想書くのがだだ遅れてしまいましたが、これの発売を待ってたんです。ウソです。存外日本に届くのが早くて驚いたくらい。この仏語版はamazon(Rohan au Louvre)紀伊国屋onlineで購入可能なので、興味のある方は是非どうぞ!!




さて、本編感想。


ストーリーはルーヴル美術館にあるという、『世界一邪悪な絵』を露伴が追う話。『前編』は全体的な物語の導入部にあたり、露伴がルーヴル美術館へ足を運ぶまでの動機描写となっています。しかし、この前編のみでもちゃんと起承転結してるのが荒木先生。まぁこれは荒木先生に限らない話だけど、以前講演会で仰られていた事はこういう事なのかと改めて実感できたのでそう言っておこう。というわけで、起承転結を追う感じで感想を。

『起』はこの物語の主人公・岸辺露伴の登場とその解説部分。漫画家であること、スタンド能力のこと、そしていきなり「最も『黒い色』とは何か」という問題提起をすることで読者を惹き込み、同時にそういう奇妙でふしぎな事に興味を持つ露伴というキャラクターの性格を表しています。ここから露伴先生の回想に入ることで物語が転がっていきます。

『承』。露伴先生の回想で登場してくる新しい人物・藤倉奈々瀬という女性キャラクター。若かりし頃の露伴先生も興味が惹かれるところですが、露伴先生すら魅入ってしまう麗しいうなじを持つ若き未亡人への関心は尽きないところ。しかし彼女、感性やら行動がもろ「荒木先生の持つ女性像」であり、セクシーではあるのだけどやはりモンスターという印象が拭えません。荒木先生の女性像(そればっかりというわけではないけど)は、大げさにしてあるけど「あるある」という要素が多いですね。由花子は本当に「荒木先生の女性像」の集合体だと思う。「言っても無駄がこれほどとは…」とか、女性相手にしてるとよく思う事です。あれはご結婚されたばかりのころだから、さぞかしいろいろあったのでしょうなーと、ぼくも今から戦々恐々でございます。
ちょいと脱線しましたが、この奈々瀬というキャラもそういう要素を持っていて、年上女性の妖艶さと激しい感情変化が厄介でもあり魅力でもあり。ここいらあたりまでが『承』ですかね。デビュー前の露伴先生のグチは、そのまま荒木先生の事のようでかなり面白いです。それと男子高校生が、妙齢の女性の部屋に上がり寝具に腰をおろすというシーンに3ページも使ってるところが最高でしたわ。

物語が転がるのは、彼女がもたらした「最も黒い絵」「最も邪悪な絵」から。それは山村仁右左衛門の絵であるという。ひだりみぎえもんてどういう事? 違いました、邪悪な絵って何なのか。露伴が言うように、絵の見方に「邪悪」とか「正義」とか、そういうものがあるのかっていう話です。描いた画家からしたら、いくらかありそうですけどね。作品自体にそういう属性が付くのはどういう事なのか。
そして奈々瀬自身の話。他人事とはいえ、彼女の抱える問題と悲しみがどれほどのものでどういう経緯があるのかは、露伴先生でなくても気になってしまいます。彼女の激情変化の振り幅もその理由の演出になってます。ここまで振り幅大きいと気にならざるを得ない。大きすぎて逆にどうでもよくなるかもですが。
そしてこの過剰とも言える感情の変化が、どうも女性だからというだけではなく、それなりの理由がありそうなのです。それが何なのかはまだわかりませんが、絵にあるように思います。彼女は、露伴が試行錯誤している最中の作品を見たいと言ってました。何か特別な感じのする状態の作品を、と。それをうらやましい、とも。自分にはそういう才能がないからなのか、それとも別の意味なのか。「作品に魂を込める」という表現がありますが、そういうことが本当にあり、彼女はそれをもっと現象的な意味で捉えているのかもしれません。露伴先生が彼女の事を想って描き綴った漫画を、いきなりハサミでメッタ刺しにした事にそんなニュアンスを感じました。何らかの理由がないと、男性にあの行動は理解できませんしね。キモくて重いから、なんて理由であって欲しくないという願いだったりもします。露伴先生とぼくの。
これだけだと「邪悪な絵」に繋がらないので、もしかすると彼女は以前に見た「山村仁左右衛門の絵」によって既に呪いに掛かっているのかもしれません。時代を超えて感動を与える「絵画」自体がスタンド能力と言えるのではという見解もありましたしね。
で、その彼女の魂を露伴先生が新たに作品に描写(込めた)する事によって、露伴先生にも呪いが伝播すると思ったのなら、万人がドン引きする「原稿ハサミめった刺し」行動も少しはわかるってものです。…それにしても、あの露伴先生にそんな過去がねぇ。。。まさに黒歴史ッ!

そして『結』。回想から戻り、現代へ。現代では、カフェで康一くん、クソったれ仗助にあほの億泰と談笑中です。そこであほの億泰が露伴先生に対して、モナリザに似てるから手組んでみて、写メるから、とか、恐ろしい事を言い出しやがりました。さぞかしエッジの効いた皮肉で返すのだろうなと思いきや、モナリザというキーワードから「山村仁左右衛門」を想起。そしてそのまま帰宅する露伴先生。ここの流れが実に秀逸です。露伴先生、またキレんじゃねえの?!あほの億泰、何いってんだよ!(ハラハラ)とさせておきながら肩透かしを食らわせ、「好奇心」を何より重視しそれに対しては即行動という露伴先生の性格をババンと描いてます。それにしてもこの億泰、ムカつくことこの上なし。
というわけで、露伴先生が「最も黒い絵」とされる「山村仁左右衛門の絵」を見るためにルーヴル美術館へと飛び立ってTo Be Continued...。邪悪な絵とはなんなんだ! ドキドキワクワクせざるを得ない見事な引きで前編終了。オレもルーヴル行ってみてえ!とか思い立つほどですぜ。やばい。




他、気づいたことを。


コマ割り

読んでまず思ったことが、読みやすい!という事でした。SBRと較べてです。SBRが読みにくいというわけではないんですが、SBRでは縦に大きく割って左に読ませる「ヒキ割り」というコマ割りが印象的です。壮大なスケールのレースやギリギリの戦いをしているSBRにピッタリなのですが、そういう割り方をこのルーヴル露伴ではしてません。それはルーヴル露伴が襲いかかってくる驚異ではなく、佇む謎を題材とした作品だからだと思うのですが(ジョジョ第四部と流れが似ているのは露伴が四部出自のキャラだからではなく、同じ待ち受ける恐怖を扱っているからと推察。というか、コマ割り自体は四部も別の意味でエキセントリックですw)、この二つを同じ雑誌で読んだとき、その演出表現の違いをことさら気付かされた次第。ううむ、面白い。

海外版の擬音

フランス語版をパラパラとめくっていて、ふと気になったのがコマ外に書いてある文字。これ、なんだろう?と思って注意深く見ると、SEのあるシーンでのみ書かれていて、それが擬音表現であることに気付きました。擬音とか書き文字ってどうやって表現してるのか不思議だったんですが、ルーヴル露伴では枠外表記だったようです。




ちなみにイタリア語版ジョジョを持っているんですが、こちらは背景の書き文字もセリフも全てイタリア語に書き直されていました。どうやって元の文字消したんだろう。。。丁寧な仕事だ。
え、台湾版? 文字の違いのニュアンスからくるものかもしれませんが、台湾版はもう少し荒っぽい仕事かも。ただ、コミックスの装丁は日本と同じサイズでブックカバーも付いていてカバー下表紙もちゃんとあります。イタリア語版は、ペーパーブックみたいな感じで薄くカバーもありません。でもそれほどチャチくはないです。

画集で読むマンガ

アルバムで読んで思った事ですが、すごくいつもと違う。とても平面で広い感じがするのです。マンガコミックスや雑誌だと厚みもそれなりにあり、読むとページに「反り」ができますし、中央のノド側の部分は狭まった感じで読むことになるのですが、画集だとそれがない。横に広くて、まるで原稿を読んでいる気にさえなります。さっき述べました「ヒキ割り」の多いSBRこそ、この画集タイプで読んでみたい!と思ったのは秘密です。
そういえば、UJに移るってなったときに、JCの大きさじゃなくて銃夢LOの大きさで紙も良くなるんじゃないか!?と期待したなあ。JCで1・2巻が出てたから仕方ないとはいえ残念無念。

ルーヴルのロゴ

この企画、ルーヴルが作ったものだから本もルーヴルが出してるんですね。だから当然といえば当然なのですが、ルーヴルの公式ロゴが入ってるんですよね、表と背表紙にも! 画集とか、展示展の特別パンフレットでしか見かけなかったあのルーヴル美術館のロゴが、荒木先生の本に、ついてるんですよ! (←興奮している)
ここまでくると、むしろローマ字のダッセェ「SHUEISYA」がそこはかとなく邪魔な世界。これ、日本で出すとき、装丁どうなるんだろう。違うかもしれませんね。それも含めてコレクターズアイテムとしては、このフランス語版買って良かったと思います!


出典) 『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 荒木飛呂彦/ウルトラジャンプ・集英社

ブラボー…おお…ブラボー! 最初ブラボタンにしようと思ったけど、なんかやらしいからやめたんだぜ

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