「スタンダップ・コメディアン」への成長物語 『プラネット・テラーinグラインドハウス』

| 2007.09. 8 (Sat) 1:49 AM | [映画] | ←前■TOP■次→ |

最もスタイリッシュな対ゾンビ兵器とは―?

四連ショットガン?

 芝刈り機?


 ノンノン、M16回し蹴り掃射ですYO!

照準が付けにくいだろうとか、衝撃がヒドいだろうとか、そもそもトリガはどうすんだとか、そういう細かい事には一切触れないのがお約束

というわけで観てきました、『プラネット・テラーinグラインドハウス』。8月末の一週間だけ限定で公開されていた“US版”をです。『プラネット・テラー』はやはり『グラインドハウス』という映画作品の一部なのだからセットで観ないと真の価値はわからないかもしれません。作品本編を『グラインドハウス』であるとする根拠は、この映画の冒頭から架空の配給会社のロゴや予告映画が放映されるから。また、フィルムの擦り切れや傷、感光による白みに加え、果てはフィルムの紛失までを演出しているのだから、本編は紛れもなく『グラインドハウス』であり、『プラネット・テラー』はそこで上映されている作品のひとつに過ぎないと断言できましょう。観れば、分かる。ちなみに順番も多分重要で、この『プラネット・テラー』は1本目。そうしないと『デス・プルーフ』のネタが若干理解できなくなります。ご注意をば。

この映画は、国外向けとしては単品のディレクターズカット版で配信されている模様。ディレクターズカットというからには、独自のカットが盛り込まれていたりするのでしょう。(調べたらそれぞれ20分くらい長くなっている模様。追加されたシーンについてはコチラ→)それはそれで見てみたい気がします。しかし、何がディレクターズカットなのかを理解するためにも、コンセプトを忠実に反映したUS版を観るべきかもしれません。

あらすじ

テキサスの田舎町。米軍基地の部隊長マルドゥーンは科学者のアビーを相手に、恐怖の生物化学兵器の取引をしていた。しかし、アビーが予備の試薬を隠し持っている事を知り、彼を追う。追い詰められたアビーは実験装置を射撃。そこから噴き出した恐怖のガスが人々を溶かし、恐ろしく凶暴なゾンビ状態の“シッコ(感染者)”に変えてしまった!
その頃ゴーゴーダンサーのチェリーは、2週間前に別れた恋人のレイと再会。彼とドライブ中にシッコに襲われ、片脚を食いちぎられてしまう。一方、女医のダコタは横暴な夫のブロック医師を捨てて息子を連れ、レズビアンの恋人タミーと逃げる計画を立てていた。
ところがシッコの犠牲となったタミーが悲惨な死体となって病院に担ぎ込まれ…。妻の裏切りを察知したブロックはダコタに魔の手を伸ばす。
やがて町中にシッコが溢れ出す。片脚に木製テーブルの脚を突き刺して逃げ延びたチェリーとレイ、ヘイグ保安官やその兄JT、そしてダコタら、生き残った人々はシッコと戦いながら逃避行するが、途中でマルドゥーンに捕らえられてしまう。そこには、邪悪な米兵たちとシッコを相手にした、さらに壮絶な戦いが待ち受けているのだった。チェリーが装備した怒りの“片脚マシンガン”が火を噴き出した…!(公式サイトより)

『プラネット・テラーinグラインドハウス』は、ロバート・ロドリゲス監督がクエンティン・タランティーノ監督とのコラボレート企画「グラインドハウス」の1本として製作したロドリゲス色たっぷりのゾンビ映画です。いやまあ厳密に言えばゾンビではないのだけど、ゾンビっぽいクリーチャー“シッコ”が出てくる映画。それだけでワクワクするのに、片脚が機関銃だなんて一体僕にどうしろと?!

興奮気味にまくし立てましたが、「ゾンビ」(ここでは敢えてゾンビという表現で統一させて頂きます)というB級の代名詞の一角を担うコンセプトに、ギターケースにマシンガンじゃあ飽き足らなくなりました、とばかりにブッ立てられた片脚マシンガンという設定。この2ピースだけで僕のような人間がわらわらと喰い付くのですが、中身はそんな食い付いたターゲットの嗜好を満たす設定・演出の詰め合わせ。注射器をデリンジャーのように太ももに装備する女医に、銃をナイフをガンカタばりのギビギビした動きで敵を打ち払い、且つ噴き出す血飛沫をマトリックスばりのアクションで交わしながら切り刻む解体屋の元恋人、ツンケンしながらも麗しき兄弟愛を煌かせながら散る保安官&飲食店経営者のブラザーに、テンガロンハットとライフルという実にアメリカンなスタイルでフツーに最後まで地味に頼りになる親父と、脇を固める陣営も“片脚マシンガン”に負けないインパクトを持ってます。

そんな面々がそれぞれの見せ場をしっかりと魅せ、そして速やかに、時に唐突に退場していくテンポも心地よく、それを聴覚の面で支える音楽も見事。この音楽のあたりに、ジョン・カーペンターへの愛というか影響を感じますね。

R-15指定なので見た目グロい演出も所々にありますが、劇中では「麻酔」というアイテムひとつで「痛み」という概念をスッ飛ばしつつゴリ押されているので、苦手な人もあまり精神的にクる事はないと思います。寧ろ、痛々しいのに登場人物が痛がってないので滑稽。それも狙いにあるでしょうけどね。「片脚マシンガン」とか「木製テーブルの脚を突き刺す」とか「目ン玉に注射&杭」など、痛々しい描写がありますが、これらの要素は主に「ゾンビ」と「麻酔」というキーワードで見事に流されていくのです。

その反面、「男だと見てるだけで痛々しい」シーンはかなり多め。キン○マコレクターはいるし、ゾンビの症状を調べるのに出てきた参考資料はアソコが腫れ上がった写真だったり、一方タランティーノ演じるレイプ魔ナンバー1に至ってはアレが腐り落ちるというね。(だけども超嬉しそうで困る。ノリノリだろ、タランティーノwww) 正直ここまでこれば、脚がマシンガンなだけに電気アンマ乱射とかするんじゃないかと思ったけどそれは残念ながらなかったです。電気アンマって世界共通じゃないのかなーロドリゲス監督に教えてあげたい。いいアイデアだと思うのだけど、ダメすかw。

最後に主人公のチェリーについて。こんなハチャメチャ設定でも、この映画は主人公の成長物語として描かれていると僕は思います。それは、チェリーが元恋人レイに出会った時に話していた会話での事。

「ゴーゴーダンサーは辞めたの。私、スタンダップ・コメディアンになろうと思うの。」

チェリーという人物はかなりマトモ寄りな人物として描かれてる(と思う)のだけど、マトモという事は面白味のない人物だって事なのです。そんな彼女がスタンダップ・コメディアン(ナイトクラブなどでジョークを言って客を笑わせる人)になりたい、というのは戯言というかギャグでしかないのだけど、そんな彼女が“片脚マシンガン”という見ただけで笑える人物になるという、そういう意味で成長したって事なんじゃないのかと僕は思うのです。劇中では、片脚を失い「もう立てない、歩けない」と嘆くシーンも描かれています。そんな彼女が、木製テーブルを、M16を脚にして見事に立ち上がり[スタンダップ]、そしてグレネードで空を飛びトリガーの事や残弾の設定を放置してM16掃射する(僕ら視点での)笑える人間[コメディアン]になるというミーニングを、僕は感じてならないのです。

予告編の話。

冒頭で流れるのは『マチェーテ』というメキシコ映画の予告。ロドリゲス作品の馴染みとなったダニー・トレホが恨みを背にマチェットを全身に携えて復讐する痛快アクションで、なんつーか普通に見てみたい映画。とはいえ、そんな映画が作れる構想があったのなら作ってるはずなので、多分設定は面白い思いつきが出来たのだけど中身が詰められなかったからこのような形で使ったのでしょう。でも見てみたいよ。ダニー・トレホが怖いんだか頼もしいんだかw。

『デス・プルーフ』との間に挟まれた予告は3本。しかもコレ、それぞれに監督が付いてやってるんだよね。
『ナチ親衛隊の女狼』は、ナチスという設定に狼女を盛り込んだ、実にB級テイスト溢るる設定。そんな心地よい安っぽさの中、最後に突然ニコラス・ケイジを出してくるセンスが素晴らしい。俳優出しただけでギャグになるってどういう事なんだw。この映画予告の監督はロブ・ゾンビ監督。

『Don't/ドント』はヘルハウスのオマージュぽい映画のようでした。しかし面白いのは映画予告としての構成で、「~をやってはいけない!(Don't!)」というキーワードでホラーの定番行為(一人でぶらつく等)を挙げていくというもの。ホラーでやっちゃいけない事ってのは確かにあって、これ死亡フラグだ!ってのが確実にあります。それを序列していくだけでも結構面白いのだけど、徐々にテンポが速くなって最後はスゴいDon'tラッシュ。コレじゃ何にも出来ねえな!と言う観客のツッコミを待つ作りでした。この映画予告の監督は『ショーン・オブ・ザ・デッド』のエドガー・ライト監督。それを知った後で、ひょっとしたらこの「Don't」ラッシュはあの「Don't stop me now」に掛かってるんじゃあないかと思いました。Don'tがDon't stop me now!という感じで。ムダに難解だw。

最後は『感謝祭』。シュールギャグと肉を扱った、これもまた如何にもなB級臭漂わせる作りで素晴らしい。監督は「ホステル」のイーライ・ロス監督。D・リンチと共にプロデューサーとして多くのショートフィルムを手がけ、「キャビン・フーバー」でQ・タランティーノ、T・フーバー、P・ジャクソンを唸らせたという逸材。何なんだよ、この無駄に豪華過ぎるメンバーは!

この映画予告がUS版にしか入っていないとしたら、悔しがる人はかなり多いんじゃあないのだろうか。DVDには収録されている事を祈らずにはいられません。




なお、原書をそのまま翻訳したメイキング本が9月下旬に発売予定。様々なグラインドハウス風ポスターやストーリーボード、予告編の紹介など、内容盛り沢山!

■ラフ・プルーフ(耐笑仕様)で臨め! 『デス・プルーフinグラインドハウス』

『プラネット・テラーinグラインドハウス』
監督
ロバート・ロドリゲス
製作総指揮
ボブ・ワインスタイン
ハーヴェイ・ワインスタイン
脚本
ロバート・ロドリゲス
音楽
ロバート・ロドリゲス
出演
ローズ・マッゴーワン
フレディ・ロドリゲス
マーリー・シェルトン
マイケル・ビーン
ブルース・ウィリス
製作年度
2007年
製作国・地域
アメリカ
上映時間
105分
原題
Robert Rodriguez's Planet Terror
公式サイト
http://www.grindhousemovie.jp/

ブラボー…おお…ブラボー! 最初ブラボタンにしようと思ったけど、なんかやらしいからやめたんだぜ

映画一覧